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東京地方裁判所 平成11年(ワ)1078号 判決

平成一一年(ワ)第一〇七八号 損害賠償等請求事件

平成一一年(ワ)第一二六五四号 保証金返還反訴請求事件

原告(反訴被告)

片岡エンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

及川昭二

被告(反訴原告)

大和工業株式会社

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

高木修

主文

一  原告の本訴請求をいずれも棄却する。

二  反訴被告は、反訴原告に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成一一年六月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを八分し、その三を本訴被告(反訴原告)の負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴請求

1  被告(反訴原告。以下、単に「被告」という。)は、原告(反訴被告。以下、単に「原告」という。)に対し、金一六三七万五〇〇〇円及びこれに対する平成一一年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の新聞に同目録記載の方法で掲載せよ。

二  反訴請求

原告は、被告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成一一年六月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等(括弧内に証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがない。)

1  原告は、流動乾燥粉砕機の設計・製造等を目的とする株式会社であり、被告は、陶磁器用窯の設行及び施工等を目的とする株式会社である。

2  原告と被告は、平成七年一一月一〇日、次のような内容の生産技術提携基本契約(以下「本件第一契約」という。)を締結し(甲一)、被告は、原告に対し、本件第一契約の契約金二〇〇〇万円を支払った。

(一) 本契約は、原告が開発した又は今後開発する流動乾燥粉砕機及びその補機類(以下「流動乾燥粉砕機」という。)を対象とする。

(二) 原告は被告が流動乾燥粉砕機を日本国内において製造するために必要なノウハウを被告に対して提供する。

(三) 被告は原告に対し、原告が被告に本契約所定の技術提供をなす保証として次のとおり金員を支払う。

(1) 被告は原告に対し実施許諾にかかわる契約金として二〇〇〇万円を支払う。

(2) 被告は、原告の技術提供に関して自ら要求したサービスに対し原告の標準費用報酬規定に従い原告に対して支払をし、また、サービスの遂行のために要した旅費・宿泊料及び食事等の費用を原告に補償する。

(四) 原告は流動乾燥粉砕機の販売権を被告に与えるものではなく、原告及び被告の需要家に対する見積書・見積仕様書等の提出において被告が必要資料の作成に協力し、原告の決定において販売する。

(五) 原告が受注した製品は原則として被告に発注し、被告は、これを製造し、原告に納入する。

(六) 原告の流動乾燥粉砕機の販売活動について、被告は原告の販売提携先(荏原製作所・住重マシナリー株式会社)と需要家が明らかに競合する引合いについては、定めた方法による協議に協力する。

(七) 原告及び被告は、相手方が本契約に定める義務を履行しない場合、その履行又は損害賠償若しくはその両方について、違反当事者が六〇日以内に是正策を講じない場合は、直ちに本契約を解除することができる。

(八) 本契約の有効期間は平成七年一一月一〇日より五年間とし、期間満了の六か月前までに原告及び被告のいずれからも相手方に対し書面による契約終結の申出をしないときは、この契約は更新されたものとして引き続き五年間有効とし、その後も同様とする。

(九) 本契約当事者は、第三者に対し本契約又は本契約に規定するいかなる権利・権益・債務又は義務といえども、直接間接を問わず譲渡・移転又はその他の方法により処分してはならない。

3  原告と荏原製作所は、平成九年九月一日、原告の破砕流動乾燥装置に関する特許及び製造技術の実施許諾について、次のような内容の技術導入契約(以下「本件第二契約」という。)を締結した(甲九)。

(一) (1) 「本装置」とは、原告が製造・販売している破砕流動乾燥装置(部品及び予備品を含む)をいう。

(2) 「本件特許」とは、本契約の締結時及びその後の「本装置」に関し、原告が特許出願中の又は特許出願する発明及びそれに基づく工業所有権で、原告が【A】から譲渡を受けたものを含む。

(3) 「技術情報」とは、原告が有する「本装置」の製造、販売、使用に必要な技術情報、図面、ノウハウ、コンピュータ・プログラム、ハードウェア、ソフトウェアに関する情報である。

(二) (1) 原告は、荏原製作所に対し「本件特許」及び「技術情報」に基づき、本契約存続期間中、日本国内の産業廃棄物及び一般廃棄物処理における排出物の処理用途の分野(以下「対象分野」という。)において「本装置」を製造・販売する独占的実施権を許諾する。なお、荏原製作所は、本項に定める実施権に基づいて第三者に再実施権を許諾することができる。

(2) 右(1)の荏原製作所の独占権に関わらず、原告は自らが自身の名においてのみ「対象分野」において「本装置」を製造・販売することができるものとする。ただし、「対象分野」のうち焼却灰の処理用途には、原告は「本装置」を販売することができない。

(3) 「本装置」の販売について原告と荏原製作所とが明らかに競合する引合については、原告及び荏原製作所は都度協議しその取扱いを決定する。

(三) 原告及び荏原製作所は、相手方の書面による承諾を得ないかぎり、本契約により生ずる一切の権利、義務の全部又は一部を第三者に譲渡し、担保に供してはならない。

4  本件第一契約及び本件第二契約の対象となる装置は、同種の装置(以下「本件装置」という。)である(弁論の全趣旨)。

5  被告は、名機産業株式会社(以下「名機産業」という。)との間で、平成九年一〇月三一日ころ、株式会社INAX(以下「INAX」という。)大曽工場に納入する「タイル原料乾燥粉砕装置」の売買契約を締結し、右装置をINAX大曽工場に納入した(以下「本件販売」という。甲二、弁論の全趣旨)。

二  本訴請求は、原告が、被告に対し、本件販売は、本件第一契約に違反するとして、損害賠償等を求めるものであり、反訴請求は、被告が、原告に対し、本件第二契約の締結が、本件第一契約に違反するとして、契約を解除し、保証金の返還を求るものである。

三  争点

1  本訴請求について

・ 本件販売が本件第一契約に違反するかどうか

(原告の主張)

本件販売の対象製品は、本件第一契約において、「販売権を被告に与えるものではなく、原告の決定において販売する」とされている装置(本件装置)であり、被告は、原告に無断で本件販売を行ったから、本件販売は、本件第一契約に違反する。

(被告の主張)

本件販売によって最終的にINAXに納入された製品は、本件第一契約の対象とは異なる、二軸からなる衝突用遠心羽根(ランナー)を備えたものであり、本件装置ではない。

また、本件販売行為は原告の承諾の下に行われたから、本件第一契約に違反することはない。

・ 原告が本件販売について事後的に承諾したかどうか

(被告の主張)

原告は、被告に対し、平成九年一一月六日、事後的に本件販売について承諾した。

(原告の主張)

被告の主張事実は否認する。

・ 原告の損害

(原告の主張)

原告は、本件販売により、次のとおり合計一六三七万五〇〇〇円の損害を被った。

本件販売自体による損害    一三八七万五〇〇〇円

権利保全のための諸経費           二五〇万円

(被告の主張)

原告の主張を争う。

2  反訴請求について

本件第二契約の締結が本件第一契約に違反するかどうか

(被告の主張)

本件第一契約では、被告は、原告が受注した本件装置の製造を受注することができる上、原告の承諾があれば、自ら本件装置を販売することもできた。ところが、本件第二契約によると、原告は、被告に対して、本件装置の製造販売をさせることができないのであるから、本件第二契約の締結は、本件第一契約に違反する。

そこで、被告は、原告代表者に対し、本件第二契約の締結後である平成九年一二月一日、六か月以内に本件第二契約を破棄できない場合は本件第一契約を解除する旨の意思表示をした。原告はこれを無視して現在に至っているため、本件第一契約は平成一〇年五月末日の経過により、解除された。

仮に、右解除の意思表示が認められないとしても、被告は、本件反訴状によって、本件第一契約を解除する旨の意思表示をした。

(原告の主張)

本件第二契約では、「本装置」について、荏原製作所に独占的実施権を許諾しているが、同時に「荏原製作所の独占権に関わらず、原告は自らが自身の名においてのみ「対象分野」において「本装置」を製造・販売することができる」との定めがあり、原告は荏原製作所の独占権から除外されている。したがって、本件第一契約の履行には何ら支障がなく、本件第二契約の締結が本件第一契約に違反するものではない。

第三争点に対する判断

一  本訴請求について

1  前記第二の一5の事実に、証拠(甲七、一一、乙一ないし五、乙七の一、二、乙八の一、二、乙一〇、一四)と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

・ 被告は、原告とともに、INAXの工場向けの本件装置販売のための営業活動を行い、平成九年三月には、原告から受領した見積書に基づいて見積書を作成して、名機産業に交付した。

同年四月には、被告の【C】設計部長が、原告代表者とともに、INAXの

【D】 原料課長を案内して、高松市の讃州製紙に設置されている本件装置の見学に行った。

原告は、同年五月ころ、被告に対して、INAX宛ての本件装置の見積仕様書を交付した。

被告は、同年六月には、右の見積書から値引きした金額の見積書を作成して、名機産業に交付した。

・ 原告は、その後、経営状態が悪くなり、被告から連絡を取っても、うまく連絡が取れないようになったが、被告は、INAXの工場向けの本件装置販売の話をすすめた。

原告は、被告に対して、平成九年九月二四日付けで書面を送付したが、それには、「INAX向けの物件は、貴社と当社間の「技術・製造基本契約」を残念ながら越えた、本件限りの特例と当社は受け止めておりますが、(株)荏原製作所殿と当社の間に新たな契約が提携されましたら、(株)荏原製作所殿は技術等を重要視する企業ですのでこの様な例外はあり得ないと推察致します。」と記載されていた。

・ 被告は、名機産業との間で、平成九年一〇月三一日ころ、INAX大曽工場向けの本件装置の売買契約を締結し、右装置をINAX大曽工場に納入した(本件販売)。

・ 原告は、被告に対して、平成九年一一月六日付けで書面を送付したが、それには、「INAX殿の件は前にも申し上げました様に、貴社と当社間契約外の貴社が直接INAXと契約した特例です。本件の契約状況、受注金額等貴社から何のお知らせもなく、手数料等をどのような内容で御請求申し上げてよいやら苦慮しております。」と記載されていた。

・ 原告は、被告に対して、平成一〇年三月一二日付けの書面を送付したが、それには、「先日お願い致しましたINAXの手数料の件でありますが、以前より文書等で申し上げております様に、貴社と弊社間「生産技術基本契約」の精神からも貴社が直接御契約行為の禁止をうたっております。本件(INAXの件)は営業スタート時の一時期に弊社も参加させて頂き、その後貴社単独で現在に至っております。この事から、貴職が先日言っておられた対INAX受注には、貴社が少なからず宣伝費等の出費があった事は弊社と致しましても十分理解出来ます。ただ、先述致しました様にどの様な状況があったにせよ「生産技術基本契約」はお互いに守るべく取り交わした厳然たる事実ですので、その精神は遵守すべきと弊社は考えます。しかしながら、流動乾燥粉砕機に係わる貴社の現状は弊社も十分理解出来ますので、INAXの件の手数料は貴社にお貸ししてあることとし、後日機会を見て御清算と言うことに致したく御提案申し上げます。」と記載されており、原告の被告に対する右同日付け請求書には「流動乾燥粉砕機(F・D・P)販売手数料(契約額の三%)一式(INAX殿向窯業原料乾燥粉砕装置分)」と記載されていた。

2  右1で認定した事実によると、原告は、被告に対して、平成一〇年三月一二日付けで、本件販売に関する手数料の請求を明示的に行ったのであり、その事実に右1で認定したそれまでの経緯を総合すると、原告は、遅くとも平成一〇年三月には、被告の本件販売を事後的に承諾したものと認められる。

3  そうすると、本件販売が本件第一契約に形式的に違反するものであったとしても、右のとおり原告の事後的な承諾が認められる以上、本件販売が本件第一契約に違反することを理由とする本訴請求は、いずれも理由がない。

二  反訴請求について

1  前記第二の一の事実によると、本件第一契約と本件第二契約の関係について、次のように認められ、これに反する証拠はない。

・ 本件第二契約は、特に限定なく、日本国内の産業廃棄物及び一般廃棄物処理における排出物の処理用途の分野を対象とし、その分野での本件装置の製造・販売について荏原製作所に独占的実施権を認めるものである。

右荏原製作所の独占権に関わらず、原告は、「自らが自身の名においてのみ・・・製造・販売することができる」とされているが、この条項は、原告が自分で製造・販売することが認められたのみであるから、被告に発注して製造することは含まれないものと解される。

・ 本件第一契約では、原告が受注した製品は原則として被告に発注するものとされているが、本件第二契約では、右・※のとおり、本件装置の被告による製造を排除する内容であるから、本件第一契約と抵触するものということができる。

・ 本件第一契約では、契約当事者は、第三者に対し本契約又は本契約に規定するいかなる権利・権益・債務又は義務といえども、直接間接を問わず譲渡・移転又はその他の方法により処分してはならないとされているところ、本件第二契約の締結は、原告が、本件第一契約によって被告に認められた権利(原告が受注した製品を原則として受注できる権利)を間接的に処分したことに当たり、また、本件第一契約において定められた、原告の被告に対する契約上の義務の一部が、取引通念上、履行不能になっているものというべきである。

・ したがって、被告による本件第二契約の締結は、本件第一契約の解除理由となる。

2  被告は、本件第一契約について平成九年一二月一日に解除の意思表示をしたと主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。

被告は、原告に対し、本件の反訴状において解除の意思表示をしたものと認められるところ(当裁判所に顕著な事実)、本件第二契約の締結という契約違反の事実は平成九年九月一日に発生しており(前記第二の一3)、現在に至るまで解消されていないのであるから(争いのない事実)、本件第一契約の解除は、右反訴状の送達された日である平成一一年六月一一日に効力を生じたというべきである。

3・ 前記第二の一2の事実によると、被告から原告に対して支払われた本件第一契約の契約金二〇〇〇万円は、原告から被告に対して技術の実施を許諾する対価の前払い分であると認められるから、契約が途中で解除された場合は、未経過分を返還すべき性質のものである。

・ そして、前記第二の一2の事実によると、当初の契約期間(平成七年一一月一〇日から五年間(六〇か月))のうち平成一一年六月一一日の解除の時点で残存している契約期間は、約一年五か月(一七か月)であると認められるから、原告が被告に返還すべき契約金の未経過分は、二〇〇〇万円の約六〇分の一七に当たる五五〇万円が相当であると認められる。

三  以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がなく、前記第二の一の事実及び右二の事実によると、被告の反訴請求は、商行為たる本件第一契約の債務不履行解除に伴う契約金返還請求であるから、原告に対し、五五〇万円及びこれに対する、反訴状送達の日の翌日である平成一一年六月一二日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)

〈編注:『※』部分は原文のとおり。〉

〈以下省略〉

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